Friday, June 15, 2007

アナスイ

そう。
そろそろ、来てるんじゃないかななんて、和弘唐突に思ったのだった。
だって、もうすぐ台風がこの街にやってくるかもしれないって
さっきもラジオでいっていたからだ。
当分は、引き篭もっていなくちゃならないのかと
和弘は、ひとりごちた。
と、そこにサンダルを頭にのせたひとりのばあさんがやってきた。
そして、ばあさんは、おもむろに和弘の座っているPCデスクの端っこに腰を下ろすと
わかばという銘柄のたばこを懐から取り出して、旨そうにすいはじめたのだった。
和弘は、なぜか気が動転してしまって、一言も言葉を発することができなかった。
すると、ばあさんは、紫煙をフーッと旨そうに吐き出して、こういうのだった。
「あのさ、あんたさえよけりゃ、あのアナスイの香水を1ガロンくらい分けてやっても
いいだよ」
なななんなんだろう、このばあさんは、と和弘は思ったけれども
そんなことは、おくびにも出さず、こう言っていた。
「1ガロン? アナスイ? アナスイって、あのANNASUIのこと? 中国系アメリカ人の
天才デザイナーじゃん!」
「そうさ。男なのに、そんなことよく知ってるな、小僧」
「小僧って、酷いなばーさん。どんだけ~!」
「なんだい? そのどんだけ~ってのは?」
「とんでけ~のまちがいじゃないのかい?」
「ま。それは置いといて。そのアナスイのことなんだけど」
「アナスイが好きなのかい?」
「いや、アナスイは…。実は。ぼぼぼぼぼっぼ」
「なんだい、嫌な子だね。男だたらはっきりしなさい」
「それでも、ちんちんついてんのかね?」
「ええ?付いてますとも。それも…。いや、もうこれ以上、下のほうにネタを振らないでくださいませんか?」
「ははん?」
「わかった。あんた、このごろやってないんだろ、女と?」
「だんだけ~! じゃなかった。だ・か・ら、ばーさん、下ネタ錦糸町ね」
「おっと、それをいうなら、下北金子だろ?」
「わかった。わかりましたよ。錦糸町」
「で、なんだい? 早くいってらくになっちまいな」
「わかったよ。実は、その、その、そのアナスイは、ぼくの実のママなんだ」
「どんだけ~!」
そういって、ばあさんは、わかばを咥えたまま、下北半島に帰っていきましたとさ。